こんにちは。TAILORS WORLD編集部の萱場です。
今回は、スーツの基本スタイル(大雑把ではありますが)を簡単に振り返りたいと思います。
スーツの基本スタイル
まず、現在のスーツスタイルは、少し乱暴ですが、下記の3つに大別できます。
1.ブリティッシュスタイル (威厳)
2.ヨーロピアンスタイル (お洒落)
3.アメリカンスタイル (自由主義)
この様な分類は、ビスポークからすると、国やロケーションによるスタイルよりも、師事した人物の影響を大きく受けるのでナンセンスに思われる方もいるかも知れませんが、数あるスーツのスタイルを考える際に、大まかな型として役に立ちます。
この3つのスタイルは、「肩パッドがあって、カチッと見える」のがブリティッシュや、アンコンで絞りが無いのが「アメリカンスタイル」というような形式的なことではなく、各国の気風や美意識が反映されたものだと思います。
英国は、ヨーロッパでいち早く産業革命が起き、大英帝国を築き上げました。そのキリスト教圏の先進国としてのプライドが 、(重厚/威厳)という美意識につながっているのかもしれません。
ヨーロッパでは、多くの芸術都市があり、その芸術的感性が、曲線美などが特長のヨーロピアンスタイルにつながっているのかもしれません。
さらに、イタリアで考えると、南部と北部の工業化の格差が激しく、北部では、美しいミラノスタイルや、フィレンツェがその地域のスタイルとして発達し、南部のナポリなどでは、工業化が遅れた影響と、昔からのリゾート地であったことが一因となり、ハンドメイド主体(ミシンをほぼ使わない)の軽い仕立ての洋服が発達した背景があります。
アメリカは、もともと英国からの開拓民を主体として成立した国なので、100年以上昔であれば、英国的なスタイルに対するアンチテーゼや、合理的な考え方(もっと動きやすくて軽い服を)をといった考えが今より強かったかもしれません。
日本のスタイルとは
日本の洋服は、明治以降、基本的には英国の服作りに発展してきました。日本の典型的なスーツと聞くと、だぼだぼの袖丈なども合っていないダークグレーのスーツを想起される方もいらっしゃるかもしれませんが、洋装社刊の『紳士服裁断裁縫の要点』に載っている写真などを見ると、好みは別にしてその完成度の高さに驚かれると思います。美意識云々というよりも、シワの無い完璧なプロポーションを緻密なカッティングと手間を惜しまないアイロンワークで完成させており、ビジネスカジュアルが、浸透し、ジャケットもアンコン化、ニット製品化が進んでいる現在においては逆に新鮮に写ります。
こちらの本は1995年に発売されているので、80-90年代には、日本のテーラーリング技術は非常に高かった事がわかります。
それでは、日本のテーラードスタイルとはなにかと言われれば、答えるのが難しいですが、「顧客に合わせる」ということではないでしょうか。
ハウススタイルという概念より、培った能力と技術で、顧客一人一人の身体のクセをうまく補っていき、その補正の総体として、一着の洋服が生まれると言うのが一番近いイメージなのではないかと思いました。
日本におけるスーツ市場の発展
第一次~第二次世界大戦を境に、戦前は注文服、戦後になって既製服が中心になり、日本にもその流れが来たことによって1960年にイージーオーダーと言われる和製英語が登場してきます。ちなみに、イージーオーダーの言葉は外国では通用しませんのでお気を付けください。(日本で言う、イージオーダーの様なシステムは、海外では、あまり発展している印象はなく、ビスポーク(もしくはス・ミズーラ)とパターンオーダー(MTM)の2種類が多いように思います。)
イージーオーダーとは結局何なのか?
先述したように日本のオーダーメイドには色々な種類があり、そのサービス名称もテーラーごとに違う事も少なく有りません。
特にイージーオーダーというは、何がイージーなのか、パターンオーダーと何が違うのか、というのが分かりづらいと個人的には感じています。
ここで、イージーオーダーの定義をズバリと私が発表できるわけでは無いのですが、イージーオーダーは、補正可能範囲が広く、寸法メイン、パターンオーダーは、補正可能範囲が限定的で、サイズメインという違いがあるかなと思います。
イージーオーダーは、採寸した寸法を元に、CAD上のマスターパターンからグレーディングを行いそのお客様のパターンを作成して、スーツを作るイメージです。
パターンオーダーは、あくまで用意されたゲージを基準に補正可能寸法内で補正を行うイメージです。
もちろん、パターンオーダーでもゲージの数が非常に多ければ、様々な寸法に対応できるようになるので、イージーオーダーに近くなると思いますが、そこまでサンプルサイズを用意しているパターンオーダーは多くはありません。
CADベースで、指定した寸法にグレーディングしてパターンを作るという意味で、ビスポーク(フルオーダー)の型紙作成工程を簡素化したのがイージーオーダーと言えるかもしれません。
まとめ
最後まで、お読みいただきありがとうございます。
概念的なことを小難しく考えるよりも、実際に注文してみるほうが、粋かもしれません。
セレクトショップの販売から、オーダースーツの接客を経て、現職に至ります。趣味のサウナめぐりを再開できる世の中に戻ってくれることも願っています。