テーラーにとって欠かすことの出来ない重要な道具の一つ、鋏(ハサミ)。
今回は、日本においてのルーツとちょっとした話をお届けします。

TAILORS WORLD編集部の久(ヒサ)です。

さて、鋏と言えば何鋏を想像しますか?
私達の業界で言えば、裁ち鋏、糸切り鋏、ピンキング鋏のことですね。

裁ち鋏、古くは羅紗(ラシャ)切り鋏とも呼んでいました。長さは24cm~30cmの物が多く、作りは総火造り(手作り)のものと、先手打ちのもの、そして型抜き溶接と呼ばれる大量生産されるものに分かれます。

総火造りのルーツは、刀鍛冶だった、吉田弥吉氏が明治10年にその技術を活かして開発したのが始まりとあります。1本の鋏を叩きに叩いて、身の部分、持ち手の部分を作る、正に鋼を鍛えて作り上げていきます。

1本の鉄板に1000度の炎で熱し鋼をのせて叩いて接着、鍛造していきます。
持ち手部分も同じ鉄板からハンマーだけで作り出すので刃から持ち手で1本物です。
刃と持ち手が一体成形なので強度が高く、その分軽くすることが出来、手の負担が少ないのが特徴です。

ですから、切れなくなれば研ぎを繰り返し、40年、50年と使い続けることが出来ます。
長く使えば、身の部分は細くなり、長さも短くなりますが、切れ味は新品のものと変わりません。

また、大量生産品は、身の部分、持ち手の部分を別々に作り、持ち手部分は鋳型で作り接合します。身の部分も手打ほどは鍛えませんし、鋼の量も少ないので、切れ味の続く長さも短いので、鋏の寿命も短命と言わざるを得ません。

先手打ちは、ちょうど中間のといった感じでしょうか。刃の部分だけ手打ちをし、持ち手部分は型で抜いたものを溶接で接合する製法です。コストパフォーマンスは高いですが、総火造りの特徴である一体成形での製造ではないので総火造り裁ち鋏の軽くて頑丈な鋏の仕上がりには及びません。

価格面でも大きく違い、大量生産品の通常のものは15,000円前後ですが、手打ちのものは35,000円以上するのが当たり前です。
余談ですが、少し前に、インターネットに有名な長太郎(総火造り)の30cmの鋏が、300,000円で販売されていました。

糸切り鋏(小鋏)も手作りのものと量産品とでは、似て非なるものと思っていいでしょう。
良いものは何年でも、研いで使えますが、量産品は研げないので、使い捨てになってしまいます。

こう書いてて、これってテーラーが作り上げるスーツと同じだな、と感じた次第です。