こんにちは。Tailors World編集者の福田です。
嗜好品としてオーダーされる方々にとってはスーツの各ディテールに拘り、一見他人からは解らない自分のみが知る喜びとして、装いを楽しむ。とても素敵な事だと思います。
工場の担当者と打ち合わせしていた際に、今の時代では使う事の無いディテールなのに拘るお客様が多いなーみたいな会話から、改めて指摘されると、今まで気にしていなかった事が、急に違和感になり、なんだか初心に戻らされた思いをしました。
現代では、使用するシーンが少なくなったであろう仕様のご紹介です。
本切羽・本開き
オーダースーツといえば「本切羽」というくらい有名なディテールですね。ボタンを外せて腕まくりが可能になります。
でも実際は、まくられる方は少ないんではないでしょうか。
この仕様は、昔のヨーロッパの医師がジャケットを脱がずに診療や手術などを行える様に生まれたという説があります、別名「ドクタースタイル」とも呼ばれる様です。
また昔は仕立てた洋服を、子供に譲る文化も有り、後に子供の袖丈に合わせれる様、下2つのボタンホールのみ開け後に袖丈調整を出来る様にしていた様です。未だにこのオーダーも頂いております。
フラワーループ
上前(右)ラペルにあるフラワーホールは、社章などを付ける為に現代でも機能してますが、裏側にあるフラワーループは使用頻度が少ないですよね。
元来その名と通り、フラワーホールに花を挿し、茎を固定するためのディテールになります。
チェンジポケット
今でも見かける事が多いチェンジポケットですが、ポケットとして使用する方は少ないですよね。お釣り(チェンジ)を入れていたことから名付けられた様です。主に下前(左見頃)にあり、胸ポケットが無いため、ウエスト部分のアクセントとなり、昔も今もデザインとして重要な役割を果たしています。
チケットポケット
裏側にある胸内ポケットの上にあるチケットをいれる為に作られています。工場によっては、昔ながらの呼び名で「上テケ」といいます。
因みに裾の方にタバコポケットは「下テケ」と呼んでいます。
パスポートポケット
前見頃の内ポケットにみる仕様です。
ポケット上部にもスペースを作り、パスポート上部を挿入することにより、盗まれにくくする目的の為に生まれました。
現代では、パスポートも小さくなった為サイズ的には合いませんが。。
たまに長財布を入れている方もいらっしゃいますが、胸が膨らみ、重みでジャケットも型くずれしてしまうので避けた方が良いですね。
ヒゲ襟
上襟の裏側部分にある、表地の折返し部分です。こちらも後のサイズ調整可能な部分としての仕様です。また、上襟のハネを防げる効果もある様です。この仕様は手のかかる仕様の為、高級な仕立てとしての証でもあります。
時計ポケット
パンツの帯の縫い目に作るポケットです。昔は海中時計を入れていた様です。現代では小銭を入れたりされる様です。
スロートタブ(スロートラッチ)
こちらはデザイン有りきですね。防寒・防風の為のボタンを留めれる仕様です。
ボタンを留める事はあまりないかもしれませんが、画像の様なツイード系や厚物素材でカントリーライクに仕上げたい時には付けたくなるディテールです。
ドル入れ
パンツのマーベルト(腰裏)の下前(右前)部分にお札を入れるポケットになります。
ベストの白襟
取り外しのできる白襟になります。ベストに白い襟を付けるのは日本独特の習慣の和服の白襟から来ているそうです。
以上のディテールは使用頻度は少ないですが、歴史ある紳士のオーダースーツには時代背景から生まれた、機能や工夫がたくさん詰まっており、そこに惹かれる紳士は今でもたくさんいらっしゃいます。いずれも一手間かかる工程が入りますので、通常のイージーオーダー等では割増対象のオプションにはなりますが、自分だけが知る喜びとしてオーダーの醍醐味かと思われます。
銀座のテーラーにて職人見習いを経てヤマモトに。